英語4技能の目的と意義

大学入学試験を4技能化することの目的と意義

英語4技能試験の背景

国際的な観点から見た場合の日本の学生の英語力の低さ:
感覚的に観察されていることであるとともに、様々なリサーチ結果でも数字として裏付けられている例が数多くあり、これが事実であることについては疑いがあまりないようです。

日本人の英語力の低さの原因:
では、次にどのような要因がこのような結果を導いているか、という点ですが、大きく2つの原因があると考えられます。
ひとつには、日本人には英語は学びにくいという仮説。これはかなりの説得力があります。世界中の人々はそれぞれのコミュニティーで使用する言語があります。そして別々の言語でも言語間での類似性が認められます。近似している外国語ほど習得は容易という当然の理があります。英語は歴史の過程でラテン語、ドイツ語、フランス語などの影響を受けて成り立っており、例えば、フランス語を母国語とする人々が英語を習得するのは、日本語を母国語とする人々が英語を習得するのに比べて簡単であると考えられます。
この理由はひとつの説明はつきますが、日本の英語力が他のアジアの国々と比べて劣っていることについての説明には全く役にたちません。

そこで推定されるのが、日本の学校での英語教育にうまくいっていない部分があるのではないかということです。
ここで、過去に議論されたのが(英語力の中でも特にスピーキングの力が劣っていることから)、中学校および高校の英語の授業での指導方法がまずいのではないかというアプローチで、それに対して中学校および高校の立場からは、大学の入学試験がリーディングを偏重している試験をしている以上現場としてはそれに沿った指導にせざるをえない、という反論があり、言ってみれば、大学の英語の入学試験問題が戦犯にされたわけです。
そこで、盛り上がった意見が、では大学入試を変えれば、中学校、高校での英語の指導方法が本来あるべき姿(すなわち文科省の推奨する指導要領により沿ったもの)に変わるはずなので、大学の英語の入試を4技能に変えよう!という結論です。

大学入試を4技能に変えれば学校の英語の指導法が変わるという推論は実現するのか?

おおまかにいうと、以上の経緯と推論が2020年から大学入試の英語が4技能化される大きな動機となったといえるのですが、筆者(永江俊一)は次のような疑問点が残ると思います。

疑問のその1

中学校、高校での英語の指導が英語の読みだけに偏っているのは大学入試の出題による結果なのか?

だれが言い出した主張かも不明なのですが、普通に考えれば、これはあまり説得力のない言い分と思います。試験というのは、もちろん履修内容を評価するものなので、なるべく履修内容に沿った問題を出題をだすべきなのだと思いますが、また試験は客観的に測定できるものであるべきという側面もありますので、試験問題に適するもの、不適なものとがあります。もし試験問題に適した問題で履修内容の結果が評価できるのならばそれで良いわけです。読解だけの試験の結果でその受験者の4技能の能力のすべてが合理的に評価できると考えられれば、読解だけの試験でいいはずです。例えば、大学入試では日本語(国語)の試験は読解だけの試験となっています。このために日本の国語の授業は読解だけの授業になっているでしょうか?日本語の話す方の能力は犠牲にされているでしょうか?そんなことはありません。国語の問題についていえば大学の入試試験の問題は、中学校および高校の指導方法になんの変化も与えていないと思います。

疑問のその2

大学の入学試験を4技能に変えれば、中学校、高校の指導が4技能に変わるのか?

疑問その1の提議から導かれる論理としては、大学の入学試験が4技能に変わったからと言って、中学校、高校の授業はほとんど変わらないと考えるべきと思います。

もし大学の入学試験を4技能に変えたことによって、中学校、高校の授業はほとんど変わらず、結果として日本の高校卒業生全体の英語力が上がらなければ、英語の入学試験改革は大きな目的を逸するものになります。

疑問のその3

大学入試にスピーキングおよびライティングの出題・評点は適しているのか

ライティング、スピーキングなどのアクティブな能力というのは評価の客観性が弱点なので、大学入試の試験科目として適切なのかという問題が持ち上がります。
英語の能力は読解、リスニング、ライティング、スピーキングの各能力のうちひとつだけ突出するということはあまりなく、4技能の間には強い相関関係があることが普通です。この相関関係が非常に強ければ、ひとつの能力を測定すれば総合的な能力を合理的な範囲で測定できるという観点があります。とすれば、この合理的な推定と、客観性に欠ける試験結果の採用とどちらがよい結果を得られるかは深く検討して結論を出すべき問題です。特に複数の民間試験が使用可能である状況では各試験間の公平性が担保されないのではないかという懸念も残ります。

サマリー

大学の入学試験の英語を4技能化するのは肯定的な側面がある一方、期待される効果(中学校・高校の授業内容の進歩による高校卒業生の英語力の向上)が実現するか否かについては単なる推定の因果関係(大学入試の英語試験問題が変われば中学校・高校の英語の授業内容が向上する)を含んでいるという脆弱さを含んでいます。

筆責:永江俊一、マイヤー英会話代表
4技能英語塾